素顔のままに


後編



「…!お前ら…。」

「兄ちゃん…。」
「さるの…。」

襖の動く音とともに入ってきたのは、兎丸と…そして由太郎だった。


二人は先程の話と…そして今自分たちの目の前にいる、仲間の姿に驚き、呆然とした。




天国はサラシを巻かずにTシャツだけをきた胸元を隠すようにおさえた。




(…見られた…。)
自分の正体を知られた、少なからぬ喪失感が天国を襲っていた。




「出て行け。」


「!」

凍りついた空間に、黄泉は声を発した。


「今、天国に近寄るな。」

「…アニキ…。」


冷たい威嚇は、その場を底冷えさせるに十分な迫力を持っていた。

しかし。



「そーはいかないよ!猿の兄ちゃん…ううん、猿野天国は僕たちの仲間だよ。」

「とまる…そうだよな、さるのはオレたちの大事な仲間だ!」

二人は怯まなかった。



関係ない、二人の頭に同時に浮かんだのはその言葉だったから。

天国が女の子だ、という事実。
それは驚くことでも、失望などには決して繋がらない。



それより、むしろ。



「なら尚更だ。仲間なら今こいつに近寄るな。」




「何でアンタが出張る気?(¬_¬) 」

「哥哥(兄さん)だからって尚更関係ないアルよ。」

黄泉の言葉に更に返答したのは、別の二人だった。


「朱牡丹センパイに王センパイ?!」
「いつのまに来たんだよ…二人とも。」


「さっき。(^0^)v」

「うまく見つかったアルよ。朕たちらっきーネ。」



「…あんた達も…。」


天国は次々に来る仲間に諦めの表情を見せた。


その表情は…今まで見たことの無い、寂しそうな表情だった。


「…そんな顔しないでよ。」

いち早く気づいた兎丸はそう言った。


「兄ちゃんが女の子だったからって、僕らにとって…猿野天国は仲間だよ!
 さっきも言ったじゃない!」

必死の言葉に、天国は更に哀しそうな目を見せた。


「何で?!何でそんな顔するんだよ、さるの!」

「猿野…らしくなさすぎ気。(・_・)」

「……。」



王桃食は少し考えると。
一歩、天国の前に出た。


「近寄るなと…。」


「黙ってるネ雉子村。
 朕は猿野に言いたいことあるヨ。」


「なんだと?」

「王センパイ?!」


天国は驚いて桃食を見た。

「…ワンタンさん…。」

桃食は、普段の表情からは想像のつかない…厳しい表情で言った。

「猿野、お前兎丸やユタ…それに朕たちもお前を気遣って言ってると思ってるカ?」


「…!」


「勘違いするな。
 それから朕たちを見損なうな。

 気なんか使ってないネ。

 …朕も、兎丸もユタも…多分朱牡丹もお前が好きアル。

 それくらい信用するネ。」



「…あ…。」


天国の視線が桃食にとまり、そして兎丸たちのほうにも向いた。



「…王センパイの言うとおりだよ、兄ちゃん。…お姉ちゃん、だけどね。」

「おれも気なんか使ってない!さるののことダイスキだぞ?!」

「…オレも嫌いじゃない気。(ー.ー")…多分、じゃなくてさ。」



「皆…。」


「……お綺麗なことだな、全く。」

黄泉は呆れたようにため息をつく。


「……うるさいよ、兄貴…。
 心配…させたのは、謝るけど。」


「…!……天国。」

「へへ…。」


天国は、静かに泣いていた。


素顔で、泣いていた。



########

「猿野くん!大丈夫かい?!」


ほどなく牛尾が姿を現した。
が、既に黄泉の姿は消えていた。


「牛尾キャプテン…。」

「……本当に、女の子だったのか…君は。」

「…はい…すみません。」

「お前…いや、差別はしねーけど…よくそんなんであそこまで…。」

「御柳、言い方悪いング。
 …辛かったべな、猿野。」

「気づいてあげられなくて、ごめんね…。」

「いえ、そんな…。」

「もうっ、猿野クンたらどうしてもっと早くアタシにくらい言ってくれなかったの?」

「アニキに言ってどーすんだよ。
 …でも、もっと早く言ってくれてもよかったぜ?猿野。」

「まったくだNa。
 そうしたらもっと可愛がって…んがっ!!」

「不謹慎だ、虎鉄殿。」

「全くだ。」

「とりあえず…お前…野球、やめたりしないだろうな。」



「え…?」

最後にかけられた犬飼の言葉に。
天国は大きな目を見開いた。


「…続けて、いいのか?」




「全く…君は。」




「「「「「当たり前のことだろ?」」」」」



その言葉を聞いて、天国は。


こぼれるような笑みを見せた。




そして、先に駆けつけてくれた4人の方を向くと。




ありがとう、と。



また笑った。



そして 少女 猿野天国は 新たな物語を 新しく作り上げていく。


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きっかけはもう覚えていない。

オヤジが息子でなきゃ自分の子じゃないとか、ふざけた事言ったとか、そんなことだったらしいけど。

そんなこと、もう。

どっちでもよくなったから。



オフクロはきっと、笑ってくれるだろう。

オレも…私も、笑うだろう。


素顔のままに。



                           end


なんかとってつけた感が…ぬぐえないような。ホントスミマセン!!
エセシリアスなままで終わりましたね。

いちおうこの設定でもうひとつお話を作る予定です。
続けやすく終わらせることが出来たのでその点はほっとしてます…。

よんチョコさま、改めまして遅れて申し訳ありませんでした!
そして素敵なリクエスト本当にありがとうございました!


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